「世界遺産にされて富士山は泣いている」著:野口健 (PHP新書)– 2014/6/14出版
一気に読みました。
富士山はやっぱり泣いている・・・
いい本です。お勧めします。
ただ、1点、オシイところがあります。それは後ほど。
「富士山 ― 信仰の対象と芸術の源泉」これが世界文化遺産の登録名。
やはり著者・野口健氏が指摘する通り、世界遺産指定は早すぎだったと思えます。
今回の文化遺産登録も2016年2月までに抜本的な保全計画の提出と具体的な実現戦略がユネスコから求められています。
あれほど世界遺産指定に向けて長年準備してきたのに遅々として進んでいないようです。
ただ、これを機に!というチャンスであることも事実です。
野口氏は「利権」に蠢く富士山の問題を指摘しており、政治・経済など様々に入り組んで絡まってます。
これを解消するには何らかの大鉈を振るわなければならないのですが、「世界文化遺産」と「利権」とは両立しないことは素人目に見ても明らかです。
私自身いろいろな場面で、自己中で「動かない」ことを山梨に移住して感じることが多いです。
また、静岡との協調は互いに私心なく行われないとうまくいきませんが、そもそも山梨と静岡では、取り組むスタンスが大きく違うことが本の中で指摘されています。
「未来の為に」どれだけ動けるのか・・・、日本の象徴「富士山」で日本人が試されています。
もっと良い山(良い社会)になるチャンスでもあります。
1点、この本で非常に残念な点とは、富士山の北と東の広大な土地を占める演習場の問題には露ほども触れていない点です。
多分、あえてアンタッチャブルのブラックホールとして書かなかったのだと思います。
著書では物事のA面・B面について触れています。
そこから考えるとこの著書のB面が演習場問題かも知れません。
国防だけでなく「同盟国」アメリカとの関係もある大変厄介な問題です。
演習場(現在、北富士演習場と東富士演習場)の土地は明治期から演習に使われ、敗戦後に米軍に占領されました。
その後、徐々に返還されて自衛隊の演習場となった経緯があります。
一部がまだアメリカ軍海兵隊の基地「キャンプ富士」として使われています。
演習場の維持資金は日本が出すが、指定地域であれば最大270日間(1年の3/4)、土日以外、周囲への特段の事前通告なしに米軍の演習に優先利用出来る場所です。
大砲も撃てます。
ここは「敗戦国」日本を象徴する施設の一つとも言えます。
150ミリ砲(直径が155ミリの榴弾砲です。確か長さは700ミリを超えたかと…)という大砲が日常的に打てる本土唯一の演習場ということを知っている日本人はどれ位いるでしょうか?
日本全国から、本土で唯一150ミリ砲を打てる演習場として自衛隊員がやってきます。
米軍と違い自衛隊の演習は事前に付近には周知されるようですが、大砲の低周波音は50キロ以上離れた私の住んでる地域の家も揺らします。
当初びっくりしました。
ゴンッ!と家が揺れてガラスがビリつくんです。
9時過ぎの夜間演習による不気味な地鳴りで生活が脅かされることもあります。
私は現状での自衛隊による国防は非常に大切で、国防費ももう少し増やしたほうが良いと考えてますが、50キロ離れた地域にまで悪影響を及ぼす演習をしょっちゅうやる必要性には疑問を持っています。
この問題は直接行政や管轄する「富士学校」の担当者にも何度か疑問をぶつけてみました。
返答はいつも「ご迷惑をお掛けし申し訳ありません」と「出来るだけ努力します」あたりです。
米軍の演習に関しては日米地位協定によって決められており、どの程度モノが言えるのか分かりません。
基本的に何も言えないのではないでしょうか。
富士山頂での大砲の響きはすごいものがあり、音がするなんて生易しいものではなく小さな地震みたいなものです。
よくユネスコがこの現状で世界遺産に認めたものだと思っていましたが、これも自然遺産ではなく文化遺産での登録ということでお目こぼしなのでしょうか?
非常に政治的な動きに左右されやすい「文化遺産」の現況はこの著書で指摘されていますし・・・。
ただし、「信仰の対象」に大砲をブチ込んでいることは事実です。
「芸術の源泉」に大砲を撃つ。
これが現状です。
富士山の問題は日本の「敗戦」に関する問題まで含んでおり、この点でも日本人の象徴です。
一昨年、1合目から富士山山頂まで登りましたが、この問題はそんなレベルではなく、はるかに険しい「山」と思えます。
2015-10-23 関連記事・リンク追加:野口健 「世界遺産・富士山」に課せられた厳しい宿題